2012年9月1日土曜日

伝説の人シド・バレット 痛ましい最新インタヴュー(ロッキン・オン ’82年12月号 FRONT PAGEより)





今や完全に伝説の人となりその生死すら定かでなかったピンクフロイドのオリジナルメンバー、シド・バレットの近況がフランスの雑誌 『 アクチュエル 』( ’79年) に載っていた。ロックシーンから姿を消して10年、ボウイやジミー・ペイジが彼のアルバムのプロデュースをやりたがっているという話は聞かれたが、当人は消息不明、神話だけが残された。


あなたを捜していたんですよ。チェルシーに行ったんですが、そこであなたの服が残っていて、あなたが今母親と一緒に住んでいるって聞いたものですから…

どうもありがとう。お金がいるんですか。連中は払いましたか?

いえ、そのことはいいんです。今は何をしているんですか? 絵を描いているのですか?

いや、手術を受けたんで、たいしたことはないんですが。戻ろうとしてるんですが、待たなくちゃいけないんです。
今汽車がストをやってるんで。

あれはだいぶ前に終わりましたよ。

そりゃ、結構だ。どうもありがとう…

ロンドンのアパートでは何をしていたんですか。ギターを弾くとか。

いえ… テレビをみて、それだけです…

もうプレイはしたくありませんか?

ええ。時間もあまりないし。ロンドンにアパートを捜してるんです。でも、難しいな、待たなくちゃならないだろうな…。
(持っていった洋服をながめて ) これがもどって来るとは思ってなかった。手紙が書けないのは分かってたし、とりにいく決心もつかなかっただろうしね… 汽車に乗ったりとかね… でも… 手紙も出せなかったんだ… 
ママが事務所に連絡するって言ってたけど… とにかくありがとう。( 終始彼は会話を打ち切ろうとする。何度も何度も庭にいる母親の方をながめる)

ダッジー (彼の昔のルームメイトのアーティスト) を覚えてますか?

ええ… 一度も会ってない。ロンドンじゃ誰にも出会わないつもりです。

あなたの友達がみんなに声をかけますよ。

ああ、ありがと… それは素晴らしい…
( 彼のしゃべり方や反応は精神病患者の典型的なものである。彼の最大の仕事は、待つことであるようだ、そしてテレビを見て暇をつぶす)

写真を撮らせてくれませんか

ああ、どうぞ。(ニッコリと笑い、もじもじしてエリのボタンをはめる) 
もういいでしょ。苦痛なんです… ありがとう。(彼は家の前にある木を見ている。他に何と言っていいのか分らない)

素敵ですね、あの木。

ええ、でももうそうじゃありませんよ。ついさっき切られてしまったんです。切る前は大好きだった。(家の中から彼の母親の声がする。“ロジャー、いらっしゃい、お茶にしましょう。みなさんにサヨナラを言いなさい” ロジャー<シドの本名>・バレットはうろたえ、こちらを振り返る)
それじゃ… ロンドンで多分また会えるでしょう… サヨナラ… 

ええ、その時までサヨナラ。

なんか痛ましいというか、こんなことまでして彼のインタヴューを取る必要があるのだろうか という気すらするが、シド・バレットは現在36才。彼の病気は恐らく精神分裂病だろうと言われているが、もともと傷つきやすく脆い精神が、あのサイケデリック・ブームの中のフロイドの成功によるプレッシャー、ドラッグのやりすぎなどにより、ズタズタにされてしまったようである。彼の友人でもあったデイヴ・ギルモアはこうコメントしている。

“シド・バレット? 彼についての記事はもう終わりにすべきだ。ロマンチックでも何でもない、悲惨な話さ。今やもう終わったんだ”





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